はじめに
DLC冠の雪原がリリースされてしばらく経ちました。新しく解禁されたポケモンの中には大きく環境を変化させたものがいます。中でも、ウルトラビーストウツロイドマッシブーンフェローチェデンジュモクテッカグヤカミツルギアクジキングベベノムアーゴヨンツンデツンデズガドーンが持つ「ビーストブースト」またはレイスポス・ブリザポスが持つ「しろのいななき」「くろのいななき」はダイマックスと相性がよく、一度発動されてしまうと攻撃に拍車がかかり止めることが困難になります。こういった「じしんかじょう」型特性を最大限に活かすために、これらのポケモンは起点作成型とともに組まれることが多いです。中でも「ステルスロック」と「あくび」で場をかき乱し、相手の「きあいのタスキ」や「がんじょう」を無視しながら「じしんかじょう」型特性の踏み台にしていく構築が多く存在します。
そういう意味ではカバルドンカバルドンは起点作成のプロフェッショナルといえます。優秀な数値に基づく行動保障(物理はもとよりHDに振れば特殊の弱点も一発耐える)、起点作成に向く豊富な補助技(「あくび」や「ステルスロック」、「ふきとばし」など)、優秀な特性「すなおこし」などを理由に多くの構築で採用されています。(21/01/23時点使用率ランキング9位:ポケモンバトルデータベース様)対戦の経験がある人であれば分かると思いますが、相手のカバルドンに対して隙を見せると「あくび」ループに嵌り「ステルスロック」を延々と踏み続けるか、もしくは一体寝かせるかという非常に苦しい展開を強いられてしまいます。特に使用率ランキングの高いサンダーサンダー(1位)やエースバーンエースバーン(2位)に対して「ステルスロック」の入りが良いことが採用率が高い理由だと考えられます。このカバルドンを対策することは現行のランクマッチで勝ち進むためにも重要になり、パーティ構築に「とんぼがえり」「クイックターン」持ちを入れる(ラグラージ from 育成論ソードシールド/2404 :「クイックターン」を下から打つためにカバルドンに抜かれる調整をしている)、もしくは「ラムのみ」持ちを入れた(ギャラドス from 育成論ソードシールド/478 : 「ラムのみ」により「あくび」耐性がある)対策が挙げられます。
これらの対策のほかに、積極的にこれらのポケモンを時間切れ勝ち(Time Over Death:通称TOD)に嵌めていく戦法があります。この戦法については先行する育成論(ヤドキング from 育成論ソードシールド/1682 : 交代封じのために「とおせんぼう」を採用し状態異常を回避するため「かえんだま」を持たせている)に詳しい記述があります。TOD戦術を成立させるポケモンの要項は下の3つにあると考えています。
- 交代封じができる(技「とおせんぼう」や「くろいまなざし」、特性「かげふみ」など)
- 回復手段がある
- 状態異常に耐性がある(相手の「あくび」や「どくどく」をシャットアウトするため)
受けループに入るような低火力のポケモンを嵌めていく場合は上の3点でおよそTODは成立すると思いますが、カバルドンカバルドンを相手する場合は「ふきとばし」によってTODから脱出される可能性があります。これを封じるためには技「ねをはる」や特性「きゅうばん」を採用する必要があります。
本育成論では、採用率の高いカバルドンカバルドンを起点にTODを遂行することにフォーカスし、ナッシー(アローラ)ナッシー(アローラ)に高い適性があることを報告します。TODに必要な技「とおせんぼう」を、また「ふきとばし」をシャットアウトできる「ねをはる」を習得する点、また特性「しゅうかく」と「ラムのみ」により長い居座りの間で状態異常の耐性を獲得できる点を高く評価しました。これは既存のTOD型モジャンボモジャンボにはない特長で、「ねむる」によるTOD最終版の不確定性を除去することができます。技「やどりぎのタネ」や「かえんほうしゃ」を採用することで対カバルドン性能は落とさずに、合わせて増加傾向にある受け回しに入るようなポケモン(ナットレイヌオードヒドイデラッキーなど)をも相手取りTODもしくは処理を遂行できる可能性があることが分かりました。
採用理由と役割
コンセプト通りカバルドンカバルドンをキャッチしそこからTODを遂行する場合に採用されます。その他、一部の受け回しポケモン(ナットレイヌオードヒドイデラッキーなど)を嵌めてTODする場合にも採用が見込まれます。TODせずとも、「とおせんぼう」から「やどりぎのたね」で削りながら後続のポケモンの一貫を作るなどの運用もできます。くさタイプやみずタイプに耐性を持つため、ゴリランダーウオノラゴンに対するクッションとしても使用可能です。
特性と持ち物
- 特性
しゅうかく
ターン終了時、自分が最後に使用した『きのみ』が50%の確率で元に戻る。天気が『にほんばれ』の時は100%の確率で元に戻る。
- 持ち物
ラムのみ
持たせると、戦闘中に状態異常や『こんらん』になった時に自分で治す。
持ち物「ラムのみ」により、カバルドンの「あくび」やナットレイヌオードヒドイデの「どくどく」を無効化します。これら状態異常はTODを遂行するにあたり大きな障害になります。また特性「しゅうかく」により不確定ではありますが長期的な状態異常耐性を獲得できます。これにより、「ねむる」を採用する必要がなくなり技スペースの節約になります。
性格・努力値と調整
- 性格
のんき
- 努力値
H252 B252 C4
Bに補正をかけ振り切ることでカバルドンの「じしん」やナットレイの「ジャイロボール」「ボディプレス」のダメージを最小限に抑えます。またHに振り切ることでラッキーの「ちきゅうなげ」4耐えができます。H無振りラッキーに入った「やどりぎのタネ」および「ねをはる」による回復量が毎ターン52入るため「ちきゅうなげ」を受けてもHPがむしろ2だけ得し、有利な展開に持ち込めます。余りの4は、ドヒドイデやヌオーの「ねっとう」が耐性により1/4であるためDには振らず、Cに回しました。Sに少し割けば無振りカバルドンを抜けますが、TODにおいては下から動いた方が有利になります。Sに下降補正をかけ個体値を0にすると実数値が45になり、これは無振りドヒドイデの55を下回り、例えばドヒドイデの「じこさいせい」の後から「ギガドレイン」で削ることでHP割合の判定勝ちに持ち込むことができます。
技構成
とおせんぼう[★★★★★]
ゴーストタイプではない相手は逃げたり、交代できなくなる。自分が場を離れると効果は消える。
ねをはる[★★★★★]
使用後、毎ターン、HPが最大HPの1/16ずつ回復するが、交代できなくなる。自分がひこうタイプや、特性『ふゆう』のポケモンの場合はじめんタイプの技が当たるようになる。
以上2技はTODを遂行するにあたり必須になります。特に「ねをはる」はカバルドンの「ふきとばし」をシャットアウトするためのほか、継続的な回復ソースにもなります。
やどりぎのタネ[★★★★☆]
使用後、毎ターン、相手のHPを最大HPの1/8ずつ減らし、その分自分のHPを回復させる。自分は交代しても効果が引き継ぐ。くさタイプのポケモンには無効。
TODをかなり有利にする技です。「やどりぎのタネ」によるHP移動の判定がターン後であるため、時間切れ時のHP割合判定で有利になります。これにより、こちらから有効打がなくともヌオードヒドイデラッキーなどにTOD勝ちすることが可能になります。しかし、序盤に撃ってしまうとTODされていることに気付いた相手が回復技をあえて使用せずに自主退場してくる可能性があります。それを避けるために試合終盤3ターンあたりに撃つことを推奨します。
以下、選択技です。
ギガドレイン[★★★☆☆]
相手に与えたダメージの半分だけ自分のHPが回復する。
かえんほうしゃ[★★☆☆☆]
10%の確率で相手を『やけど』状態にする。
まもる[★☆☆☆☆]
必ず先制でき(優先度:+4)、そのターンの間、相手の技を受けない。連続で使うと失敗しやすくなる。ダイマックス技や第7世代のZワザの攻撃技は貫通し、1/4のダメージを受ける。
TODができなかった場合、カバルドンやヌオー、ドヒドイデの削りを優先する場合はくさ技は優先度が高い選択肢になると思います。特にカバルドンの「じしん」のダメージが「ねをはる」回復量より大きいため「ギガドレイン」で回復すること、もしくは「まもる」で凌ぐ必要があります。攻撃技がなくとも「やどりぎのタネ」による判定でドヒドイデに対してTOD勝ちできる可能性が高まります。また「かえんほうしゃ」を採用することで「てっぺき」「ボディプレス」で突破しようとしてくるナットレイの処理をすることができます。これは後述する差別化に関して大きなポイントになります。
被・与ダメージ計算
- カバルドンカバルドン
〇被ダメ カバルドン→ナッシー(アローラ)
A132(無振り)「じしん」
12.3%~14.8%(「ねをはる」回復量だけでは賄えない)
A132(無振り)「こおりのキバ」
43.5%~53.4%(※TOD不可)
●与ダメ ナッシー(アローラ)→カバルドン
「ギガドレイン」
H215D92(H252)カバルドンカバルドン
62.3%~75.3%
H215D124(HD252)カバルドンカバルドン
47.4%~55.8%
- ドヒドイデドヒドイデ
〇被ダメ ドヒドイデ→ナッシー(アローラ)
C73(無振り)「ねっとう」
4.4%~4.9%(「ねをはる」回復量で賄える)
A83(無振り)「どくづき」
24.7%~30.6%(「ねをはる」回復量だけでは賄えない、※TOD不可)
●与ダメ ナッシー(アローラ)→ドヒドイデ
「ギガドレイン」
H157D162(H252)ドヒドイデドヒドイデ
24.8%~29.2%
- ラッキーラッキー
〇被ダメ ラッキー→ナッシー(アローラ)
「ちきゅうなげ」
50固定(「ねをはる」および「やどりぎのタネ」回復量で賄える)
- ナットレイナットレイ
〇被ダメ ナットレイ→ナッシー(アローラ)
A114(無振り)「ジャイロボール(威力52)」
11.8%~13.8%(「ねをはる」回復量で賄えないが「ジャイロボール」のPPが少ないため凌げる)
B201(B↑252)B+6「ボディプレス」
79.7%~94.0%(※TOD不可)
●与ダメ ナッシー(アローラ)→ナットレイ
「かえんほうしゃ」
H181D184(H252D↑252)ナットレイナットレイ
61.8%~72.9%
立ち回り例
- 対カバルドンカバルドン
- カバルドンに後投げし「あくび」もしくは「ステルスロック」を受ける
- カバルドンに「とおせんぼう」を撃つ(ここで「あくび」連打に対してはターン最後「ラムのみ」で無効)
- 「ねをはる」(「ふきとばし」無効、前のターンに撃たれていたらTOD不成立)
- 以降、「ねをはる」「とおせんぼう」のPP合計40および「ギガドレイン」でHP・ターン管理しながら凌ぐ
- 終盤に「やどりぎのタネ」や攻撃技で相手を削り、時間切れ判定勝ちに持ち込む
- 対ドヒドイデドヒドイデ
- ドヒドイデに後投げし「ねっとう」もしくは「どくどく」を受ける
- ドヒドイデに「とおせんぼう」を撃つ(ここで「トーチカ」を撃たれていても貫通する)
- 「ねをはる」(これによる回復量はドヒドイデの「ねっとう」のダメージを上回る)
- 以降、「ねをはる」「とおせんぼう」のPP合計40でターンをHP管理しながら凌ぐ(この間、「どくどく」や「ねっとう」による状態異常は「ラムのみ」「しゅうかく」により高い確率で治る。)
- 終盤に「やどりぎのタネ」や攻撃技で相手を削り、時間切れ判定勝ちに持ち込む(「やどりぎのタネ」のHP移動が「くろいヘドロ」よりも処理が後であるため、このとき相手のドヒドイデはHPが7/8以下になっている)
差別化(補足)
カバルドンカバルドンに対してTODを遂行するために最低限必要な技は
- 技「とおせんぼう」もしくは「くろいまなざし」もしくは特性「かげふみ」
- 技「ねをはる」もしくは特性「きゅうばん」
だと考えています。上全ての組み合わせを両立するポケモンは現状、
- タマタマタマタマ
- 原種ナッシーナッシー
- ナッシー(アローラ)ナッシー(アローラ)
- モジャンボモジャンボ
の4種のみとなっています。
モジャンボに対するナッシーナッシー、ナッシー(アローラ)ナッシー(アローラ)の優位性は「ラムのみ」「しゅうかく」にあると考えています。「ねむる」を採用することなく、カバルドンの「あくび」やドヒドイデの「どくどく」に耐性を持つことができる点で優れています。TOD最終ターンに眠ってしまう不確定性を極力除去できるうえ、「かえんほうしゃ」を採用することでナットレイナットレイも対処可能になります。
タマタマは進化前にしては高水準なBを持ち、また進化系にくらべHSが低いことから下からの「やどりぎのタネ」TODに向いている、またナットレイの「ジャイロボール」の威力を低減できるメリットがあります。しかし、コンセプト上「しんかのきせき」を持たせることができず、またきのみを持たせず特性「しゅうかく」を用いない場合ももう一方の特性が「ようりょくそ」で活用が難しい点がマイナスになります。
原種ナッシーはエスパー複合であるためナットレイの「ボディプレス」に耐性があるほか、こおりが2倍弱点で済む点が強みです。また「みらいよち」などのエスパー技を一致で撃てるためドヒドイデに強いです。とはいえ「てっぺき」「ボディプレス」ナットレイに対しては「のろい」「けたぐり」で対抗するくらいしかできないうえ、ドヒドイデに対しては普通にTODすれば済む話であるので優位性が高いとはいえません。
これらと比較してナッシー(アローラ)ナッシー(アローラ)は劣らない仕事が期待できるうえ、「かえんほうしゃ」を覚える点で唯一性がありこれは「ねむる」を採用せずに空いた技スペースに入れることができます。「てっぺき」「ボディプレス」のないナットレイをTODでき、またそうでなくでも「かえんほうしゃ」で処理するルートが取れます。わずかですがカスタム性が高いといえます。「ナットレイ」の処理を想定しない場合は、本育成論の推奨技構成「とおせんぼう」「ねをはる」「やどりぎのタネ」「ギガドレイン」は原種ナッシーで完全に再現可能です。
さいごに
ナッシー(アローラ)ナッシー(アローラ)によるカバルドンカバルドンに対するTOD遂行の流れが伝わったかと思います。以前より同様の型のモジャンボモジャンボが考案されたことがありましたが、それに対しても本育成論のナッシー(アローラ)の優位性を示せたと思います。とはいえ、こういった型は基本的に汎用性は非常に低く使いづらいうえに、周知されてしまえば機能しなくなります。また、実戦ではもっと複雑なシチュエーションが考えられるため本育成論の通りに上手くいかないことも多いと思います。それについては使用してくださった皆様によってカスタマイズが進むことを心から期待します。
現時点(21/01/23)ではカバルドン側に警戒されているような感じはなく、「あくび」を連打してくるケースが100%でした。ナッシー(アローラ)に「トリックルーム」があるため、もしくはナッシー(アローラ)自体がよく知られていないのか、「あくび」で眠らせて後続の起点にしようとしてくる動きがよくされました。「ダイジェット」が抜群であるため格好の踏み台に見えるのでしょうか、TOD型を使っている身としては上手くカモフラージュできているのでしょう。強い・弱いという尺度に縛られず、こういう型があってもよいのでは?という提案を今後も続けていきたいと思います。
以上、長文になりましたが読んで下さりありがとうございます。
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